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2009年03月24日

人生を変えた瞬間

私にできることは・・・

 私と娘、両親たち家族は病院の近くにホテルを取りました。
 娘をICUに入れるのをやめました。
 親類に医師が何人かいるのですが、「ショック状態になるかもしれないから会わせないほうがいいだろう」と彼らが言ったからです。
 たしかに意識不明のまま多数の機器と接続されている妻の姿を見せたら、娘はショック状態を起こすかもしれません。
 娘はICUに併設された家族控室にいました。
ICUの扉の前でずっと待っていて、扉が開くたび、

「ママ、がんばれ~!」

 と毎日叫んでいました。
 私はその声を録音し、ICUで流しました。

 クラシック音楽も流しました。妻は音楽大学を出て、それからピアノを教えていました。
クラシックが大好きでした。私にできることは手を握り、話しかけることだけでした。
 脳波はありませんでした。目も閉じたままで脳波がなく、すべての臓器が機械につながっています。
あらゆる検査値が見たこともないような数値を示していました。相当厳しいということはわかっていました。



strong>眠れない日々・・・


 私は帯広で歯科医院を開いています。
 いつまでも休んでいるわけにはいきません。
 歯科医の仕事は手を止めた瞬間、収入がなくなります。だから、どんな状況でも仕事はしなくてはなりません。
悲しみにくれながらも仕事をするしかないという状況でした。
 そこで平日は帯広で仕事、週末は旭川の病院という生活を送りました。
土曜日の診察が終わって旭川に行き、日曜日の夕方に帰ってくるという生活でした。
 帯広から旭川まではバスで片道四時間かかりました。往復八時間です。
 妻の母、私の母が交替で平日に付き添ってくれて、私が週末に行きました。ただ自宅から病院までは四時間かかりますから二、三時間病院にいると、バスの関係で戻ってこなくてはならないこともありました。

 眠れない日が続きました。
 カタッと小さな物音がしただけで何か起きたんじゃないかと不安になりました。精神的に追い込まれて過敏になっていました。
 寝ようと思って部屋の電気を消して静かにしようと思っても、気持ちが自然と高ぶってしまうのです。
精神をコントロールできなくなりそうで怖い。精神的におかしくなりそうなときもありました。
「きっとこういうときに人は自殺するのだろう」とわかるのです。
 怖くてテレビを付けっぱなしにしていました。そうすることで間違いを起こさないようにしていました。
 一人でいると泣きたくなりました。

「なんでこんなことになるんだ!」

 自宅にいるときは「うおぉ」という叫び声を上げもしました。
 それでも食事は必要です。母に「届けてあげる」と言われたのですが、一人になりたくて断りました。
 冬の帯広の町をコートを着て歩いていきます。目当ての店にたどり着くと店は閉まっていました。
もう少し離れたところにある別の店まで歩いていきました。そこも閉まっていました。
 何だか泣けてきました。

「なんでこんな寒い夜に私だけ歩いていなくちゃいけないのか」

 結果的にはむなしくなって、コンビニで弁当を買って一人で食べるという生活でした。
 病院へのバスに乗ると必ず泣けてきました。どうしてこんなことになってしまったんだろうと、つらい気持ちでいっぱいになりました。
涙を人に見せないよう、泣きながらバスから降りるという感じでした。
 そして、病院へ行く以外は外出しなくなりました。
 世の中から断絶した生活になっていきました。






Posted by 常音 at 21:54│Comments(0)
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